AIライターに代替可能？ それとも共存？ ライター業界の光と影

「AIに仕事を奪われるかもしれない…」

企業のDX推進やコンテンツ戦略に携わるあなたにとって、この言葉はもはや遠い未来の話ではないでしょう。ChatGPTをはじめとする生成AIが驚異的なスピードで文章を生み出す光景を前に、「人間のライターはもう不要になるのでは？」という声が日増しに高まっています。

しかし、現実はもっと複雑で、皮肉に満ちた様相を呈しています。AIは確かに多くのライターの仕事を奪いました。そして今、仕事を失った人々の一部は、AIが生み出した不自然で質の低い文章を「人間らしく」修正するという、新たな仕事に就いているのです。それは、かつての創造的な仕事とは程遠い、低賃金で単調な作業。まるで、自分たちの仕事を奪った相手の後始末をさせられているかのようです。

この記事では、最前線で起きているリアルな事例を基に、AIとライターのいびつでありながらも切っても切れない関係性を解き明かします。これは単なる「代替」か「共存」かという単純な話ではありません。テクノロジーの進化の光と影、そして「書く」という仕事の本質をめぐる、私たちの物語です。

そもそもAIはコンテンツをどう評価するのか？ Googleの哲学を読み解く

AI時代のコンテンツを語る上で避けて通れないのが、検索エンジンGoogleの存在です。彼らがAI生成コンテンツをどう評価し、何を「価値ある情報」と見なすのか。その哲学は、私たちの未来を考える上で重要な羅針盤となります。

E-E-A-T：AI時代にこそ価値が増す「人間らしさ」の指標

Googleがコンテンツの品質評価で最も重視するのが「E-E-A-T」という指標です。これは「経験（Experience）」「専門性（Expertise）」「権威性（Authoritativeness）」「信頼性（Trustworthiness）」の頭文字をとったもの。特に注目すべきは、2022年末に「経験」が追加されたことです。

これは、ウェブ上に溢れる情報のなかから、実際に体験した者だけが語れるリアルな情報を届けたいというGoogleの強い意志の表れです。AIは膨大なデータを学習できますが、製品を実際に使ったときの手触りや、プロジェクトで直面した困難を乗り越えた経験を「生み出す」ことはできません。皮肉なことに、AIが台頭すればするほど、この人間ならではの「経験」の価値は高まっていくのです。

「ユーザーファースト」が生んだ、AIへの厳しい視線

Googleは一貫して「ユーザーファースト」を掲げており、その思想を具現化したのが「ヘルプフルコンテンツシステム」です。これは、検索順位を操作するためだけに作られた質の低いコンテンツではなく、真にユーザーの役に立つ、人間が人間のために作ったコンテンツを評価する仕組みです。

では、AIが生成した記事はペナルティ対象になるのでしょうか？ Googleの公式見解は「コンテンツの生成方法ではなく、その品質を重視する」というものです。しかし、これは「AIが書いた記事でもOK」という意味ではありません。人間のレビューをほとんど経ずに、独自性も価値もないコンテンツをAIで大量生産する行為は「スパム」と見なされ、厳しい評価を受けます。

結局のところ、Googleが見ているのは「AIか、人間か」ではなく、「読者のために書かれているか」という一点なのです。

AIライター vs 人間ライター：最前線で起きているリアル

AIはライターの仕事をどう変えたのか。あるライターの身に起きた出来事は、その光と影を克明に映し出しています。

チームを解雇され、AIの「ロボット語」を修正する日々

ライターのベンジャミン・ミラー氏（仮名）は、2023年初頭まで60人以上のライターチームを率いるリーダーでした。しかし、会社がAI導入によるコスト削減を決定。まず、AIが記事の構成案を作り、人間がそれに沿って執筆する形に。次に、ChatGPTが記事全文を執筆し、チームのほとんどが解雇されました。ミラー氏と数人の同僚に残された仕事は、ChatGPTの不出来な文章を「人間らしく」編集することだけでした。

「ほとんどは、文章を整理し、ぎこちなさをなくす作業でした。奇妙に形式張った言葉や、過度に熱狂的な言葉を削るんです」とミラー氏は語ります。「人間のライター相手の時より編集量は多かったですが、いつも全く同じ種類の修正ばかり。本当の問題は、ひたすら反復的で退屈だったことです。まるで自分がロボットになったようでした」。

そして2024年、ついにミラー氏も解雇されます。「多かれ少なかれ、自動化によって仕事を失ったのです」。

「人間味を加える」という名の、低賃金で過酷な労働

ミラー氏のような経験をしているのは一人ではありません。コピーライターのカトリーナ・カウアート氏は、AIが生成した文章を人間らしくする仕事の実態をこう語ります。

「私たちは『人間味』を加えていますが、そのためには文章の根本的な編集が必要です。文法や言葉の選び方がとにかく奇妙。AIは事実を平気で捏造（ハルシネーション）するので、全文のファクトチェックも必須です。これは一から書くより時間がかかることもあります」。

しかし、その報酬は執筆作業に比べて著しく低いのが現実です。カウアート氏によれば、執筆なら1ワードあたり10セントの仕事も、この「AI編集」では1〜5セントにまで買い叩かれると言います。「退屈で、ひどい仕事。なのに、報酬は雀の涙です」。

AIは敵か、味方か？ 分断されるライター業界

一方で、すべてのライターがAIに悲観的なわけではありません。特に、キャリアを積んだライターの中には、AIを強力な「相棒」として活用する者もいます。

ベテランはAIを「天の恵み」、新人は「脅威」と捉える

9年の経験を持つコピーライター、レベッカ・デューガス氏は、AIを「天の恵み」と呼びます。「ブレインストーミングや市場調査、行き詰まったときの文章の練り直しなど、AIは信じられないほどの共同創造パートナーです」。彼女はAIを活用することで、同じ品質の仕事をわずかな時間でこなせるようになりました。クライアントが希望すればAIなしでも執筆しますが、その場合は追加料金を請求します。

このように、経験豊富なライターはAIを使いこなし、自身の価値をさらに高めることができます。しかし、キャリアの浅いライターにとっては、AIは仕事を奪い、低賃金労働へと追いやる脅威となり、業界内での格差は広がる一方です。

矛盾だらけの「AI検出」エコシステム

事態をさらに複雑にしているのが、「AI検出ソフト」の存在です。多くのクライアントやプラットフォームは、AIが書いたと判定された記事を敬遠します。

しかし、カウアート氏が指摘するように、奇妙な矛盾が起きています。フリーランスのプラットフォームは、AIが生成したコンテンツを「人間らしく」編集する仕事を依頼してくる一方で、そのプラットフォーム自体がAI検出ソフトを導入し、「AIのような文章を書かないように」とライターに警告してくるのです。

「彼らはAIコンテンツを売り、それを修正するために私たちを雇い、同時にAI検出器に引っかからないように人間らしく書けとメールしてくる。あまりにも侮辱的です」とカウアート氏は憤ります。

それでも「書くこと」を人間が続ける理由：AIが照らし出す“人間だけの価値”

ミラー氏の物語には、さらに皮肉な後日談があります。AI編集の仕事を解雇された彼が次に見つけたのは、なんと「Undetectable AI」という企業での仕事でした。その会社は、AIが書いた文章を、AI検出ソフトに検知されにくくするためのソフトウェアを開発しています。つまり彼は、AIに仕事を奪われ、AIの文章を修正させられた末に、今度はその修正作業自体をAIで自動化する仕事に就いたのです。

この話は、テクノロジーと人間のいたちごっこのようにも見えます。しかし、ミラー氏がAI編集者として過ごした日々の述懐は、私たちに重要な問いを投げかけます。

「私は、インターネットを埋め尽くし、破壊している“ゴミ”の多くに貢献してしまいました。私が出て行く頃には、誰もあんな記事を読んでいませんでした。なぜなら、それはただのゴミだからです」。

AIは効率的に「それらしい」文章を大量生産できます。しかし、そこに書き手の「経験」という裏付けや、読者への「情熱」という魂がなければ、それはミラー氏が言うように、インターネットの海を漂う空虚なゴミになりかねません。企業が発信するメッセージ、ブランドが紡ぐ物語は、効率やコストだけで測れるものでしょうか？

AIが生成した平均的で無難なコンテンツが溢れかえるからこそ、人間が自身の経験と想いを込めて書き上げた文章の価値は、相対的に、そして圧倒的に高まっていくはずです。AIはライターの仕事を奪うのではなく、ライターに「あなたにしか書けないことは何か？」と、その存在意義を問い直させているのかもしれません。

まとめ：AIは脅威か、それとも最高の副操縦士か

AIライターの登場は、働き方を根底から揺るがす大きな変化です。しかしそれは、一方的な「脅威」ではありません。

最前線で起きているのは、AIの限界を人間が補うという、いびつながらも新たな協業の形です。そして、経験豊かなプロフェッショナルがAIを「最高の副操縦士」として活用し、創造性を加速させているという、希望に満ちた現実です。

AIは、私たちの戦略を映し出す「鏡」です。安価なコンテンツの量産に使えば、ミラー氏が憂いたような「ゴミ」を生み出すでしょう。しかし、人間の専門知識や経験を増幅させるために使えば、かつてないほど強力なコミュニケーションツールとなります。

DX推進の担当者として、経営企画の一員として、今問われているのは「AIを使うか、使わないか」ではありません。「AIで、何を語らせるのか」です。あなたの会社にしか語れない物語の価値を最大化するために、AIという新たな翼をどう使いこなしていくのか。その戦略を描くことこそが、未来を切り拓く鍵となるでしょう。

引用

BBC「AI took their jobs. Now they get paid to make it sound human」