
生成AI技術の進歩は目覚ましく、様々な分野で革新をもたらしています。そんな中、ソフトウェア開発の世界に衝撃が走りました。Cognition社が発表した「Devin」は、世界初の完全自律型AIエンジニアとして注目を集めています。
本記事では、Devinの特徴や機能、そしてその登場がエンジニアの仕事にどのような影響を与える可能性があるのかを詳しく解説します。
AROUSAL Techの代表を務めている佐藤(@ai_satotaku)です。 ついに完全自律型AIの登場です。ついに来たかと言うか、来てしまったと言うかはわかりませんが、一人のエンジニアの立場からすると非常に嬉しく思っています。 これまでエンジニアリングにおいて、やらなくてはいけなかった単純作業を一括でAIお任せして、自分はよりクリエイティブなことを試すことができるわけです。 たまにはキツイこともお伝えしようと思いますが、そんなリアルな未来がすぐそこまで来ています。エンジニアとしてどのような在り方で仕事をするか、こういったAIツールや技術が出てきたときにどのように活用できるだろうか、そういった視点で読んでいただけたらと思います。 感想をX(旧Twitter)でポストしていただけると嬉しいです。メンションも大歓迎です! |
Devinとは?完全自律型AIエンジニアの概要

Devinは、2024年3月12日にCognition社が発表した革新的なAIシステムです。従来の支援型AIとは一線を画し、完全自律型のAIエンジニアとして機能します。
Devinの最大の特徴は、人間のエンジニアが行うタスクを独力で完遂できる点にあります。Devinは独自のコマンドライン、コードエディター、さらにはブラウザまでを備えており、これらのツールを駆使して複雑なソフトウェア開発タスクに取り組みます。
例えば、APIドキュメントを参照してプログラムを作成したり、エラーが発生した際には自らデバッグを行い、問題を解決することができます。さらに注目すべき点は、Devinがタスクの計画立案から実行、そして成果物の提出まで、一連のプロセスを自律的に行えることです。これは、人間のエンジニアが行う作業フローを忠実に再現しているといえるでしょう。
Devinの登場は、AIが単なる支援ツールから、実際に仕事をこなせる「同僚」へと進化したことを示しています。この革新的な技術は、ソフトウェア開発の効率を大幅に向上させる可能性を秘めており、業界に大きな変革をもたらすことが期待されています。
Devinの主要機能と特徴
Devinの機能と特徴は以下の通りです。
- 完全自律型:タスクの開始から完了まで、人間の介入なしで作業を遂行します。
- リアルタイム進捗報告:作業の進捗状況を随時報告し、必要に応じてユーザーからのフィードバックを反映します。
- バグの自動検出と修正:コード内のバグを自律的に発見し、修正することができます。
- アプリケーション構築とデプロイ:ゼロからアプリを構築し、BaaSやSaaSへのデプロイまで行えます。
- GitHub連携:GitHubのIssueを解決するために必要な情報を自動で収集し、対応します。
- 実務タスクの遂行:Upworkなどのフリーランスプラットフォームで実際の仕事を受注し、完遂できます。
これらの機能により、Devinは人間のエンジニアに匹敵する、あるいはそれ以上の作業能力を発揮することが可能です。特に、GitHubのIssue解決能力や実際の仕事の受注・完遂能力は、Devinが単なる実験的なAIではなく、実用レベルの技術であることを示しています。
Devinのパフォーマンス評価 SWE-benchでの驚異的な結果
Devinの性能を客観的に評価するため、AI向けのベンチマークテストである「SWE-bench」が使用されました。SWE-benchは、DjangoやScikit-learnなどの実際のオープンソースプロジェクトに見られるGitHubのIssueを解決する能力を測定するテストです。
このテストにおいて、Devinは驚異的な成績を収めました。従来の最先端AIモデルが、ヒントありの状態で4.80%、ヒントなしで1.96%の成功率だったのに対し、Devinはヒントなしの状態で13.86%という高い成功率を達成しました。この結果は、Devinが他のAIモデルを大きく上回る問題解決能力を持っていることを示しています。
実際のソフトウェア開発現場で発生する問題に対して、Devinが高い効率で対応できることが証明されたといえるでしょう。しかし、この数字が人間のエンジニアと比較してどの程度のレベルなのかは、現時点では明確ではありません。ただし、他のAIモデルと比較して明らかに高いパフォーマンスを示していることは事実です。
このベンチマーク結果は、Devinが単なる実験的な技術ではなく、実用レベルの能力を持つAIエンジニアであることを裏付けています。今後、さらなる改良や学習を重ねることで、Devinの性能はさらに向上する可能性があります。
Devinの開発元 Cognition社について
Devinを開発したCognition社は、アメリカのニューヨークとサンフランシスコに拠点を置くITベンチャー企業です。同社のウェブサイトは非常にシンプルで、「about」と「blog」のページのみで構成されています。
Cognition社は「推論」に特化したAI研究を行っているとされており、この分野での専門性が高いことがうかがえます。また、初期段階で2100万ドル(約31億円)の資金調達に成功しており、十分な資金力を持っていることも注目に値します。
同社は現在、Machine Learning Researcher、Software Engineer、General Applicationなどの職種で人材を募集しています。これは、Devinの開発をさらに推進し、AIエンジニアの技術を発展させる意図があると考えられます。
Cognition社のSNSアカウントは、Devinの発表以降、急速にフォロワー数を伸ばしています。2024年1月に開設されたXのアカウントは、執筆時点で既に10万近いフォロワーを獲得しています。この急激な成長は、Devinに対する世界中の注目度の高さを示しています。
現在、Devinは一般公開されておらず、ウェイトリストへの申請のみが可能な状態です。Cognition社は「Hire Devin」(Devinを雇いませんか?)というフレーズで早期アクセスを募集しており、多くの企業や開発者がDevinの実力を試すことを楽しみにしています。
Devinがエンジニアの仕事に与える影響
Devinの登場により、エンジニアの仕事が完全に奪われるのではないかという懸念が生じています。しかし、現時点でそのような事態が即座に起こる可能性は低いと考えられます。むしろ、Devinのような高度なAIの登場により、エンジニアの仕事の内容が変化する可能性が高いでしょう。
AIが低レイヤーの実装を担当することで、人間のエンジニアはより高度な設計や管理業務にシフトすることが予想されます。ただし、単純な実装タスクしかこなせない「駆け出しエンジニア」は、AIとの競争で不利な立場に置かれる可能性があります。特に、GitHubのIssueを解決できるDevinの能力は、多くの人間のエンジニアを凌駕する可能性があります。
一方で、AIの活用により、これまでエンジニアを雇用する余裕がなかった企業が、ソフトウェア開発に参入する機会が増えるかもしれません。これにより、AIを管理・運用する新たな職種が生まれる可能性もあります。
重要なのは、エンジニアが常に新しい技術やトレンドに適応し、スキルアップを続けることです。特定の言語やフレームワークだけに依存するのではなく、幅広い知識と経験を積むことが、AIとの共存において重要になるでしょう。
Devinの登場は、エンジニアの仕事が「奪われる」のではなく、「進化する」きっかけになると考えられます。AIと協調しながら、より高度な問題解決や創造的な仕事に取り組むエンジニアの姿が、近い将来の標準となるかもしれません。
まとめ
Devinの登場は、ソフトウェア開発の世界に大きな衝撃を与えました。完全自律型のAIエンジニアとして、人間のエンジニアに匹敵する、あるいはそれ以上の能力を持つDevinは、業界に革命をもたらす可能性を秘めています。
しかし、これはエンジニアの仕事が完全に奪われることを意味するわけではありません。むしろ、エンジニアの仕事の質が変化し、より高度な思考や創造性を要する業務にシフトしていく可能性が高いでしょう。Devinのような技術の進歩は、エンジニアにとって脅威ではなく、新たな機会をもたらすものとして捉えるべきです。
AIと共存しながら、自身のスキルを常に向上させていくことが、これからのエンジニアに求められる姿勢となるでしょう。技術の進歩は止まることがありません。
Devinの登場は、その進歩の一つの大きな節目に過ぎません。エンジニアたちは、この変化を前向きに受け止め、新たな時代に適応していく準備を始めるべき時が来たのかもしれません。