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「生成AIを導入したけれど、結局は議事録の要約やメールの下書きくらいにしか使えていない...」
正直なところ、そんなモヤモヤを抱えていませんか?
2023年にChatGPTが爆発的に普及してからしばらく経ちますが、多くの企業で「とりあえず導入はしたものの、業務フローそのものはあまり変わっていない」という現状があります。その原因は明確です。私たちがこれまで使っていたのは、あくまで「言葉を操るAI」だったからです。
しかし今、潮目は確実に変わろうとしています。NEC社長へのインタビュー記事や最新の技術トレンドを紐解くと、2025年に向けて「AIエージェント」という新しいキーワードが浮かび上がってきました。
これは、単に質問に答えるだけの存在ではありません。あなたの代わりに考え、計画し、ツールを操作して仕事を完結させる、まさに「優秀な部下」のような存在です。
「でも、AIに勝手に動かれるなんて、セキュリティ的に怖すぎる...」
そう感じたあなたこそ、この記事を読んでいただく価値があります。本記事では、次世代の「AIエージェント」とは何か、そして最大の障壁である「セキュリティ」をどう乗り越えればいいのか。NECの戦略や市場の動向を交えながら、DX担当者が明日から使える視点で徹底解説します。
生成AIフェーズ2へ:「チャット」から「エージェント」への進化

NECは、AIの力を安全に活用するために、セキュリティをAIに「内包」する独自戦略を掲げています。ただ便利なAIを作るだけではなく、安心して使えるAIを提供する。その姿勢が、今注目を集めているんです。
ここでは、NECが描くAIとセキュリティの融合戦略を深掘りしていきます。
言葉を操るだけじゃない、思考して動くAIとは
まず、「AIエージェント」という言葉の解像度を上げていきましょう。これまでの生成AI(LLM)と何が違うのでしょうか?
分かりやすく「旅行の計画」で例えてみます。
- これまでの生成AI(チャットボット): あなたが「京都のおすすめの旅館を教えて」と聞くと、いくつか候補をリストアップしてくれます。でも、予約するのはあなた。スケジュールの調整もあなた。移動手段の検索もあなたです。つまり、「情報はくれるけれど、手は動かさないアドバイザー」でした。
- これからのAIエージェント: 「来週の週末、予算5万円で京都旅行に行きたい。静かな旅館がいい」と伝えます。すると、AIは候補を探すだけでなく、空室状況を確認し、あなたのカレンダーを見て新幹線の時間を押さえ、レストランの予約まで完了させた上で、「これで予約しておきました」と報告してくれます。つまり、「目的を与えれば、自律的に手段を考えて実行するパートナー」なのです。
この「実行力」こそが、AIエージェントの真髄です。NECの森田社長も指摘するように、これからのAIは単なる言語処理ツールを超え、社会システムやビジネスプロセスの中で「行動する主体」へと進化していきます。
なぜ今、「自律型エージェント」が注目されるのか
なぜ、急に「エージェント化」が叫ばれるようになったのでしょうか。理由は大きく2つあります。
一つは、「人間側の限界」です。 情報爆発が進む現代において、人間がすべての情報を処理し、AIに細かく指示(プロンプト)を出し続けるのは非効率になりつつあります。「もっとざっくりした指示で、よしなにやってほしい」というニーズが、技術の進化によって実現可能になってきたのです。
もう一つは、「労働力不足の深刻化」です。 日本企業が直面しているのは、「少し便利なツールが欲しい」というレベルの話ではありません。「人がいなくて業務が回らない」という切実な危機です。これまでは「人の作業をAIが補助する」形でしたが、これからは「AIが主導し、人が最終確認する」という逆転現象が起きなければ、ビジネスが維持できなくなる領域が出てくるでしょう。
NECが描く「真のAIエージェント」の定義

NECはこの流れの中で、独自の「AIエージェント」像を描いています。それは単にWeb上の情報をまとめるだけのものではありません。
企業内の膨大なデータ、複雑なセキュリティポリシー、そして各業界特有の商習慣。これらを理解した上で、間違いのない判断を下せる存在です。 特に重要なのが、「嘘をつかない(ハルシネーションを抑える)」ことと、「止まらない(安定稼働)」こと。
ビジネスの現場、特にミッションクリティカルな領域では、「たまに面白いアイデアを出すAI」よりも、「地味でも確実に、ルール通りに処理してくれるAI」の方が圧倒的に価値が高いのです。NECが目指しているのは、まさにこの「信頼できる自律型エージェント」の実装だと言えます。
多くの企業がハマる「セキュリティのジレンマ」
便利さは分かっているのに、なぜ導入が進まない?
「AIエージェントが仕事を代行してくれる」。夢のような話ですが、現場の情シス部長や経営層の顔色は曇りがちです。
「勝手に社外のサーバーにアクセスされたらどうする?」 「顧客データを学習に使われたら終わりだ」 「AIが間違った発注をして、数億円の損害が出たら誰が責任を取るんだ?」
これが、AI導入における最大の壁、「セキュリティのジレンマ」です。 AIを賢くするためには多くのデータを与えなければなりませんが、データを与えれば与えるほど、情報漏洩やコンプライアンス違反のリスクは高まります。
特にAIエージェントは「自律的に行動する」ため、そのリスクはチャットボットの比ではありません。人間であれば「これは社外秘だからメールには書かないでおこう」という常識が働きますが、AIにはその"空気を読む力"(文脈理解)を厳密に教え込まなければならないからです。
経営層が恐れる「情報のブラックボックス化」
経営層が最も恐れているのは、AIの判断プロセスが見えなくなることです。
「なぜAIはこの取引先を選んだのか?」 「なぜこのリスク判定を下したのか?」
この問いに対して、「AIがそう言ったから」では済まされません。欧州のAI規制法案などを見ても分かる通り、これからのAI活用には「説明責任(Accountability)」が強く求められます。
セキュリティとは、単にウイルスを防ぐことだけではありません。「AIがどのようなロジックでその出力をしたのか」を追跡・監査できる状態にしておくこと(トレーサビリティ)も、現代のセキュリティの重要な一部なのです。
外部LLM依存のリスクとオンプレミスの再評価
これまで多くの企業は、手軽さからOpenAIなどのパブリッククラウド上のLLMを利用してきました。しかし、「社外にデータを一切出したくない」という金融機関や官公庁、製造業のR&D部門などでは、揺り戻しが起きています。
それが「オンプレミス(自社運用)回帰」や「プライベートクラウド」への注目です。
NECのような国内ベンダーが強みを発揮するのは、まさにここです。「日本語に強い」というだけでなく、「日本企業のガバナンス基準に合わせて、安全な環境の中にAIを閉じ込めておける」という安心感。 「性能は世界最高峰でなくてもいいから、絶対に情報がお漏らししない環境が欲しい」。この切実なニーズに対し、セキュリティとAIをセットで提供できるプレイヤーが再評価されているのです。
解決策としての「AIオーケストレーション」戦略
1つのモデルに頼らない!適材適所のモデル使い分け
では、セキュリティを担保しつつ、AIエージェントの能力を最大限に引き出すにはどうすればいいのでしょうか? その答えの一つが、「AIオーケストレーション」という考え方です。
オーケストラには、バイオリンもあればトランペットもあり、指揮者がいますよね。AIも同じです。「ChatGPT(GPT-4)ですべて解決する」という一本足打法には限界があります。コストも高いですし、全知全能ではありません。
- 指揮者(オーケストレーターAI): ユーザーの指示を受け取り、「これはどのAIに任せるべきか」を判断する司令塔。
- 専門家(特化型モデル): 「法務チェックが得意なAI」「プログラミングが得意なAI」「社内規定に詳しい軽量AI」など。
このように、複数のAIモデルを適材適所で使い分けることで、精度とコスト、そしてセキュリティのバランスを取るのです。
NEC『cotomi』に見る、特化型モデルの強み
NECが開発した生成AI「cotomi(コトミ)」は、まさにこの「特化型」の強みを活かす戦略をとっています。
世界中のあらゆる知識を学習した巨大なモデルではなく、特定の業界や企業のデータに特化して追加学習させることで、圧倒的なパフォーマンスを発揮させようとしています。
例えば、工場の設備保全。一般的なLLMに「機械から異音がする」と聞いても一般的な回答しか返ってきませんが、その工場の過去のマニュアルや熟練工の日報を学習した特化型モデルなら、「その音はベアリング摩耗の初期症状の可能性が高い。過去の事例では部品番号XYZの交換で直っています」と、ピンポイントで正解を出せます。
しかも、このモデルは社内の環境で動くため、外部にデータが出る心配もありません。これが、セキュリティと実用性を両立させる「特化型戦略」の正体です。
セキュリティと利便性を両立するアーキテクチャ
オーケストレーションの肝は、「セキュリティゲート」の設置です。
ユーザーが「A社の売上データを分析して」と指示したとします。 オーケストレーターAIは、まずそのユーザーの権限を確認します。「この人はA社のデータを見ていい役職か?」を瞬時に判定し、許可された範囲のデータだけを抽出して、分析用のAIに渡す。
このように、「AIがデータに触れる前に、厳格な認証と権限管理を噛ませる」仕組みをアーキテクチャとして組み込むことで、AIエージェントが暴走したり、情報を漏洩させたりするリスクを物理的に遮断するのです。NEC社長が強調する「セキュリティ」とは、単なるウイルス対策ソフトのことではなく、こうした「AIを安全に働かせるための業務設計そのもの」を指していると考えられます。
DX担当者が今すぐ見直すべき「AI導入ロードマップ」
ここまで読んで、「概念は分かったけど、ウチの会社でどう進めればいいの?」と思った方も多いでしょう。ここでは、明日から実践できるアクションプランを3つのステップで提案します。
【Step 1】自社データの「きれいさ」を確認せよ
どんなに優秀なAIエージェントを雇っても、参照するマニュアルが古かったり、データが散らばっていたりしたら、正しい仕事はできません。
「AI導入だ!」と意気込む前に、まずは足元を見ましょう。
- ファイルサーバーの中身は整理されていますか?
- 最新の規定と、3年前の古い規定が混在していませんか?
- 紙の書類がまだ大量にありませんか?
地味ですが、「データの整備(構造化データ化)」こそが、AIエージェント成功の8割を握っています。AIに食べさせる「食事(データ)」の質を上げることが、最初の一歩です。
【Step 2】「汎用型」と「特化型」の境界線を引く
すべての業務に高価で巨大なAIを使う必要はありません。業務を以下の2つに仕分けしましょう。
- クリエイティブ・一般業務: アイデア出し、文章作成、翻訳など。 → ChatGPTやGeminiなどのパブリッククラウド型AIを活用(個人情報は入れない)。
- コア業務・機密業務: 顧客対応履歴の分析、設計図面の解析、財務予測など。 → 自社専用環境(オンプレミスや専用クラウド)に構築した特化型モデルを活用。
この「使い分けのガイドライン」を策定することが、DX担当者の腕の見せ所です。
【Step 3】スモールスタートで「エージェント」を試験運用する
いきなり全社の基幹システムとAIを連携させるのは危険すぎます。まずはリスクの低い、閉じた環境で「エージェント」の実験を始めましょう。
例えば、「社内ヘルプデスク」は絶好の実験場です。 「PCのパスワードを忘れた」という問い合わせに対し、AIが単にマニュアルのURLを返すだけでなく、システムと連携して「パスワードリセット用の一時URLを発行してメールで送る」ところまで自律的に実行させる。
こうした小さな「完結型の成功体験」を積み上げ、セキュリティの穴がないか検証しながら、徐々に適用範囲を広げていくのが定石です。
5. FAQ:AIエージェント導入に関する現場の疑問
ここでは、導入検討時によく挙がる疑問に、一問一答形式でお答えします。
Q. 従来型RPAとAIエージェントは何が違う?
A. 「想定外」への対応力が違います。 RPAは「AならBをする」という決まったルールしか実行できません。画面のレイアウトが少し変わっただけで止まってしまいます。一方、AIエージェントは「画面が変わったから、こっちのボタンを押そう」と、状況を見て判断・修正できます。RPAが「手」なら、AIエージェントは「目と脳と手」を持っています。
Q. セキュリティ対策にかかるコスト感は?
A. 「事故対応コスト」と比較して投資を判断すべきです。 専用環境の構築には確かに初期投資がかかります。しかし、情報漏洩が起きた時の損害賠償や社会的信用の失墜は数億円〜数十億円規模になります。「保険」としてのコストに加え、「業務効率化による人件費削減」とのトータルリターンで経営層に説明することをおすすめします。
Q. 社員がAIに仕事を奪われるという反発への対策は?
A. 「面倒な仕事だけを奪ってくれる」と伝えましょう。 AIエージェントが得意なのは、日程調整、経費精算のチェック、単純なデータ入力といった、誰もが「やりたくない」と思っている業務です。「AIは仕事を奪う敵ではなく、残業を減らしてくれる味方だ」というナラティブ(物語)を社内に浸透させることが、DX推進の鍵です。
まとめ:AIは「聞く相手」から「任せるパートナー」へ
2025年、私たちはAIとの付き合い方の大きな転換点に立っています。
これまでのように、プロンプトエンジニアリングを駆使して「いかにAIから良い答えを引き出すか」に腐心する時代は、終わりを告げようとしています。これからは、「いかに安全な環境を整え、AIに権限を委譲して仕事を任せるか」が問われる時代です。
NEC社長の言葉にあるように、そこには「セキュリティ」という強固な土台が不可欠です。しかし、それは「何もさせないための壁」ではなく、「安心してアクセルを踏むためのガードレール」であるべきです。
あなたの会社では、AIをまだ「チャットツール」として見ていますか? それとも、未来の「同僚」として迎え入れる準備ができていますか?
まずは、社内のデータを見直し、小さくてもいいので「AIに任せる」領域を作ってみてください。その小さな一歩が、組織全体の生産性を劇的に変えるトリガーになるはずです。








