
はじめに
2025年5月27日、デジタル庁は「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を正式に策定しました。本ガイドラインは、AI関連技術の発展とAIの活用の官民における急速な進展を受け、政府の様々な業務への生成AIの利活用促進とリスク管理を表裏一体で進めるため、デジタル庁が経済産業省、総務省等と協力して検討を行ったものです。
これまで政府機関では「ChatGPT等の生成 AI の業務利用に関する申合せ」により、慎重な利用に留まっていましたが、今回のガイドラインで大きな転換点を迎えます。これまでは慎重に扱っていた一定の機密性が求められる非公開情報も、リスクを適切に管理して学習に使うことを認められ、これにより、専門性が高い行政事務を学習させたAIを構築することが可能になります。

ガイドラインのポイント
1. 画期的な方針転換:機密情報の活用解禁
本ガイドラインの最大の特徴は、従来禁止されていた機密情報の生成AI学習への活用を条件付きで認めた点です。2023年に「ChatGPT等の生成 AI の業務利用に関する申合せ」を策定。機密情報を学習させないなどのルールで運用してきた。しかし、新ガイドラインでは適切なリスク管理を前提に、専門性の高い行政事務のAI構築が可能となります。
2. 新たなガバナンス体制の構築
各府省庁に「AI統括責任者(CAIO:Chief AI Officer)」を設置し、組織的なAI利活用を推進します。AI活用の最高責任者となる「AI統括責任者」(CAIO:Chief AI Officer)を各府省に置く。CAIOが組織内での生成AIの利用推進や状況把握、ガバナンスを取りまとめる。
さらに、各府省などへの相談窓口や助言機関として、有識者で構成する「先進的AI利活用アドバイザリーボード」を政府内に設置するほか、デジタル庁にAI相談窓口を置き、生成AIを安全かつ効果的に使う方法を共有する。
3. リスク評価の新基準「高リスク判定シート」
政府は生成AI利用のリスクを4つの軸で評価する「高リスク判定シート」を導入しました:
- 利用者の範囲・種別:国民利用か政府内利用か
- 業務の性格:人権や安全に大きな影響を及ぼす可能性の有無
- 要機密情報や個人情報の学習等の有無
- 出力結果の政府職員による判断の有無
高リスクと判定された案件は、アドバイザリーボードへの報告が必要となります。
生活への具体的影響
1. 行政サービスの飛躍的向上
新ガイドラインにより、以下のような改善が期待されます。
【迅速な問い合わせ対応】
- 複雑な制度や手続きに関する質問への即時回答
- 24時間365日対応可能なAIチャットボット
- 多言語対応による外国人住民へのサービス向上
【行政手続きの簡素化】
- 申請書類の自動チェック機能
- 必要書類の自動提案
- 手続き進捗の可視化
【政策立案の高度化】
- ビッグデータ分析による精緻な政策効果予測
- 地域別・属性別のきめ細かな施策立案
- リアルタイムでの政策効果測定
2. セキュリティと信頼性の確保
ガイドラインでは、生成AI活用に伴うリスク対策も明確化しています:
【情報保護の徹底】
- ISMAPクラウドサービスリストからの原則選定
- 個人情報の目的外利用防止
- 定期的なセキュリティ監査
【品質管理の標準化】
- ベンチマーク評価による品質保証
- ハルシネーション(誤情報生成)の防止措置
- バイアスの定期的な検証
3. 国民にとってのメリット
【アクセシビリティの向上】
- 視覚障害者向けの音声対応
- 高齢者にも使いやすいインターフェース
- 地方在住者も都市部と同等のサービス享受
【透明性の確保】
- AI利用の明示(AIマークの表示等)
- 処理プロセスの説明可能性
- 苦情・相談窓口の設置
企業・産業界への影響
1. 新たなビジネスチャンス
地方自治体を含め行政機関が米オープンAI(OpenAI)の「ChatGPT」を活用し始めてから2年。政府は包括的なガイドラインによりAI活用を推し進める。これにより、以下の市場機会が生まれます:
- 政府向けAIソリューションの開発・提供
- セキュアな生成AIシステムの構築支援
- AIガバナンス・コンサルティング
2. スタートアップへの配慮
ガイドラインでは、国内AI産業育成の観点から、スタートアップ企業の参入促進も明記されています。デジタルマーケットプレイスの活用により、中小企業も公共調達に参加しやすくなります。
今後の展望と課題
1. 段階的な導入スケジュール
- 2025年度:ガイドラインの試行的運用開始
- 2026年度以降:本格適用、全府省庁での展開
2. 継続的な改善プロセス
技術の急速な進歩に対応するため、ガイドラインは定期的に見直されます。画像・動画生成AI、AIエージェントなど、新技術への対応も順次検討される予定です。
3. 国際的な協調
新法はAIを「安全保障上重要な技術」と位置づける。日本は国際的なAIガバナンスの議論をリードしつつ、広島プロセス国際指針等との整合性も確保していきます。
アローサルは、CAIOをすでに社内に設けています
今回のガイドラインで、政府が各省庁に「CAIO(Chief AI Officer)」を設置する方針を打ち出したことは、行政におけるAI活用が新たなステージに入ったことを示しています。しかし、私たちアローサル。テクノロジーでは、この動きを待たずに、すでにCAIOの役職を社内に設けています。
当社のCAIOは、日本のAI普及に貢献してきた人物であり、ABEJAでのプロダクトマネジメントの経験も持つ、まさにAI時代を象徴するリーダーです。
もともとはCMOとして参画していましたが、生成AIの進化と私たちの事業の深化に伴い、AIを経営の中核に据えるべく、肩書をCAIOに変更しました。現在は、AI活用戦略の立案から、AIリテラシーの社内浸透、AI導入支援、そして技術チームのリードまで、幅広く牽引しています。
行政機関がこれからCAIO制度を本格導入していくなかで、私たちはすでに実務と現場を通じて、CAIOの意義とその可能性を日々実感しています。AIを単なる「技術」ではなく「経営の意思決定に直結する戦略資産」として活用する。この視点こそが、今後あらゆる組織に求められる姿勢だと私たちは考えています。
まとめ
デジタル庁の「生成AI調達・利活用ガイドライン」は、日本の行政DXを大きく前進させる画期的な指針です。機密情報の活用解禁により専門性の高いAIシステムの構築が可能となり、国民はより高度で利便性の高い行政サービスを享受できるようになります。
一方で、プライバシー保護やセキュリティ対策、品質管理など、克服すべき課題も存在します。政府、企業、国民が一体となって、安全で効果的なAI活用を進めていくことが重要です。
このガイドラインは単なる技術指針ではなく、日本社会のデジタル変革を加速させる重要な一歩となるでしょう。私たちの生活がAIによってどのように変わっていくのか、その変化を注視しながら、より良い社会の実現に向けて歩んでいく必要があります。