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「社員の90%以上が、日常的にAIを使っています」
もしあなたの会社の経営陣がこう宣言したら、どのように感じますか?最先端のIT企業の話か、あるいは少し先の未来の話だと思われるかもしれません。しかし、これは人気スマートフォンゲーム『白猫プロジェクト』などで知られる株式会社コロプラで、すでに現実となっている光景です。
同社では「AI社員」と呼ばれる生成AIの活用が驚異的なスピードで浸透し、実に社員の3人に1人が「業務量が半分以下になった」と回答しています。
なぜコロプラは、多くの企業が苦戦するAIの社内導入を成功させ、これほどの成果を上げることができたのでしょうか?
この記事では、コロプラが実践したAI活用の具体的な秘策を、以下の3つのポイントで徹底解説します。
- 経営トップが自ら旗を振る、強力な推進体制
- 遊び心で全社を巻き込む、独自のカルチャー醸成術
- 誰もが安心して使える、万全のセキュリティ対策
「AI導入に関心はあるが、何から手をつければいいか分からない」「どうすれば社員に使ってもらえるのか」…そんな悩みを抱える経営企画部、DX推進部、人事部の皆さまにとって、具体的なヒントが満載です。ぜひ最後までご覧ください。
コロプラで「AI社員」の活用率が90%を突破

驚異的な数字が示す「AIドリブン」な企業文化
コロプラにおけるAI活用の浸透度は、まさに「驚異的」の一言に尽きます。2024年10月の発表によると、同社のAIツール(通称:AI社員"kuma")の活用率は、実に全社員の90.3%に達しています。
一般的な企業では、新しいツールを導入しても「一部の部署でしか使われない」「なかなか活用が広がらない」といった課題が頻繁に聞かれます。その中で、この90%超えという数字は、AIが単なる「便利なツール」ではなく、電気や水道のような「業務インフラ」として、そして「共に働く同僚」として完全に定着していることを物語っています。
さらに驚くべきは、その効果です。AIの活用により、社員の33.6%が「業務量が半分以下になった」と回答。これは、AIが特定の作業を効率化するだけでなく、業務のあり方そのものを根本から変革している証拠と言えるでしょう。
なぜ今、多くの企業がAI活用に注目するのか?
そもそも、なぜ今これほどまでに多くの企業が生成AIの活用に注目しているのでしょうか?その背景には、深刻化する人手不足や、激化する市場競争があります。
従来の延長線上にある業務改善だけでは、もはや企業の成長は望めません。そこで、これまで人間が行っていた知的生産業務の一部をAIに任せ、人間はより創造的で付加価値の高い仕事に集中する「人とAIの協業」が、新たな成長戦略の鍵として期待されているのです。
しかし、その理想とは裏腹に、多くの企業がAI導入の壁に直面しています。
「何に使えるのか、具体的なイメージが湧かない」
「情報漏洩などのセキュリティが心配で、利用を禁止している」
「導入したものの、社員がどう使えばいいか分からず、放置されている」
こうした課題を、コロプラはどのようにして乗り越えたのでしょうか。その成功の裏には、緻密に設計された3つの施策がありました。
AI活用を成功に導いた、コロプラ独自の3つの施策
コロプラのAI導入が「絵に描いた餅」で終わらなかった理由は、テクノロジーの力だけに頼らなかった点にあります。成功の鍵は、組織、文化、そして技術という3つの側面から、全社的にAI活用を推進したことにありました。
施策1:経営トップが主導する強力な推進体制
AI導入の成否を分ける最大の要因は、経営トップのコミットメントです。コロプラでは、代表取締役社長CEOの宮本貴志氏の直下に専門組織「AI本部」を設置。これにより、「AI活用は会社の最重要戦略である」という強力なメッセージを全社に示しました。
さらに、驚くべきはその徹底ぶりです。
- 全役員へのAIレクチャー: まず経営層がAIの可能性とリスクを深く理解。
- 月1回の全社AI勉強会: 社長自らが講師となり、最新のAI活用事例や技術動向を全社員に共有。
- 各本部長による活用推進: AI本部の施策を各部署に浸透させる役割を本部長が担う。
このように、経営の「本気度」が上から下まで一貫して伝わる体制を構築したことが、社員の意識を変え、AI活用を一気に加速させる原動力となったのです。
施策2:全社を巻き込むAI活用コンテストの開催
トップダウンの推進と同時に、コロプラが巧みだったのはボトムアップの機運を醸成したことです。「やらされ感」ではなく、社員が自発的に「AIって面白い!」「仕事で使ってみたい!」と思える仕掛けを用意しました。
その象徴が、「AI活用コンテスト」です。
これは、AIを使ってどれだけ業務を効率化できたか、あるいはユニークな活用ができたかを競う全社イベント。優れたアイデアには豪華な賞品も用意され、社員はまるでゲームに参加するような感覚で、競い合いながらAI活用のノウハウを学び、共有していきました。
こうした「遊び心」を取り入れたアプローチは、エンターテインメント企業であるコロプラならではの強みと言えるでしょう。堅苦しい研修ではなく、楽しいイベントを通じてAIへの心理的ハードルを下げ、全社的なムーブメントを創り出したのです。
施策3:セキュリティと利便性を両立する独自LLM開発
多くの企業がAI導入をためらう最大の理由が、セキュリティへの懸念です。外部の生成AIサービスに社外秘の情報を入力すれば、情報漏洩のリスクは避けられません。
この課題に対し、コロプラは自社専用の大規模言語モデル(LLM)「Colopl-LLM」を開発するという、極めて高度な解決策を選択しました。
独自LLMのメリット
- セキュリティ: 社内データは完全にクローズドな環境で扱われ、外部に漏れる心配がない。
- カスタマイズ: 自社の業務内容や専門用語に合わせてAIを最適化できる。
- コスト管理: 外部サービスの利用料に左右されず、コストをコントロールしやすい。
もちろん、独自LLMの開発には高度な技術力と投資が必要ですが、この「徹底したこだわり」こそが、社員が安心してAIを使える環境を整備し、活用率90%超えという驚異的な数字を達成するための最後のピースとなったのです。
AI導入で業務はどう変わった?具体的な成功事例
では、実際にコロプラの現場では、AI社員がどのように活躍し、業務を変えているのでしょうか。
【成功事例】3人に1人が「業務量半減」を実感
前述の通り、AIの活用によって社員の約3人に1人(33.6%)が「業務量が半分以下になった」と回答しています。これは、日々のルーティンワークが大幅に削減され、本来注力すべきコア業務に時間を割けるようになったことを意味します。
「これまで2時間かかっていた議事録の作成が、AIを使えば15分で終わる」
「膨大なユーザーレビューの分析と要約を、AIが一瞬で片付けてくれる」
こうした声が、社内の至る所から聞こえてくるようになりました。AIはもはや単なる作業代行者ではなく、社員一人ひとりの生産性を最大化する「最強のアシスタント」なのです。
【部門別】多様な業務で成果を出すAI社員の活躍
AI社員の活躍の場は、特定の部署に限定されません。エンジニアから企画、管理部門に至るまで、あらゆる職種でその能力が発揮されています。
| 部門 | 具体的な活用事例 |
|---|---|
| エンジニア | プログラムコードの生成、デバッグ(エラー発見)、技術仕様書の作成 |
| プランナー | ゲーム企画のアイデア出し、シナリオ作成、イベント企画書の骨子作成 |
| デザイナー | デザインコンセプトの壁打ち、画像生成AIへの指示文作成 |
| マーケティング | 広告コピーの大量生成、SNS投稿文の作成、市場調査レポートの要約 |
| 人事・総務 | 社内規定に関する問い合わせ対応、採用面接の議事録作成、翻訳業務 |
| カスタマーサポート | ユーザーからの問い合わせ内容の分類・要約 |
特に、これまで多大な時間を要していた翻訳や議事録作成、情報収集といった共通業務がAIに置き換わったことで、全部署の業務効率が底上げされています。
コロプラの事例から学ぶ、AI社内導入を成功させるポイント
コロプラの先進的な取り組みは、多くの企業にとって示唆に富んでいます。この事例から、私たちが学ぶべきAI社内導入の成功ポイントは何でしょうか。
ポイント1:「使われるAI」と「使われないAI」の違い
最も重要なのは、「AIを導入すること」が目的になっていないか?という問いです。
使われないAIは、現場の課題と結びついていません。一方でコロプラのAI社員は、「翻訳が大変」「議事録作成に時間がかかる」といった社員の身近な悩み(ペイン)を解決するところからスタートしました。まずは小さな成功体験を積み重ね、その有効性を社員自身が実感することが、「使われるAI」への第一歩です。
ポイント2:ボトムアップとトップダウンの融合
AI導入は、トップダウンだけでも、ボトムアップだけでも成功しません。
- トップダウン: 経営層が明確なビジョンと戦略を示し、全社的な方針を決定する。
- ボトムアップ: 現場の社員が自発的に活用法を見つけ出し、成功事例を共有する。
コロプラは、社長自らが旗を振る強力なトップダウンと、AIコンテストのような遊び心あふれるボトムアップ施策を巧みに組み合わせることで、全社的なムーブメントを創り出すことに成功しました。
ポイント3:導入して終わりではない、継続的な改善
AI技術は日進月歩です。そして、社員の活用スキルも日々向上していきます。一度導入して終わりではなく、社員からのフィードバックを収集し、AIの機能や社内ルールを継続的にアップデートしていく姿勢が不可欠です。
コロプラが独自LLMの開発に踏み切ったように、自社の状況に合わせてAI環境そのものを進化させ続けることが、持続的な成果を生み出す鍵となります。
よくある質問(FAQ)
Q1. AI社員の導入で、専門的な知識は必要ですか?
A1. コロプラの事例では、当初は専門知識がなくても直感的に使えるチャット形式のUI(ユーザーインターフェース)からスタートしました。まずは全社員が使える環境を用意し、AI勉強会などを通じて徐々にリテラシーを高めていくアプローチが有効です。専門組織は、そうした環境を裏で支える役割を担います。
Q2. 中小企業でも参考にできる取り組みはありますか?
A2. 独自LLMの開発は難しいかもしれませんが、「経営トップの強いコミットメント」や「小規模な業務改善コンテストの実施」は、企業規模にかかわらず参考にできる重要なポイントです。まずは経営者がAIの可能性を学び、自ら活用する姿を見せることが、社内の意識を変えるきっかけになります。
Q3. AI導入による雇用の不安はありませんか?
A3. コロプラでは、AIを「仕事を奪う存在」ではなく、「面倒な作業を肩代わりしてくれる同僚」と位置付けています。AIによって削減された時間を、より創造的で付加価値の高い業務に振り分けることで、社員一人ひとりの専門性を高め、事業全体の競争力を強化することを目指しています。AIは仕事を奪うのではなく、仕事の「質」を変えるものと捉えることが重要です。
まとめ:AIは「効率化ツール」から「協働する同僚」へ
今回は、コロプラが実現した「AI社員の活用率90%超」という驚異的な事例を深掘りしてきました。
その成功の秘訣を改めてまとめると、以下の3点に集約されます。
- トップの強い意志: 経営層がAI活用を最重要課題と位置づけ、全社を強力に牽引した。
- カルチャーの醸成: 楽しいイベントを通じて、社員が自発的にAIを使いたくなる文化を創り上げた。
- 万全な環境整備: 独自LLM開発により、セキュリティの不安を解消し、誰もが安心して使える環境を提供した。
コロプラの事例は、AIがもはや単なる業務効率化ツールではなく、企業の成長を共に支える「同僚」や「パートナー」になり得ることを示しています。
あなたの会社では、AIはどのような存在になっていますか?
この事例を参考に、AIとの新たな協働関係を築く一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
