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正直に告白します。私は長年、「スマートグラスなんて、一部のガジェットオタクか工場勤務の人だけのもの」だと思っていました。あの10年以上前の「Google Glass」の挫折を見てきた世代なら、無理もありませんよね? カメラ付きメガネを掛けて街を歩くなんて、プライバシー的にもファッション的にも「ナシ」だと。
でも、その認識はもう捨てたほうがいいかもしれません。
最近、Googleが発表に近づいているとされる新型AIグラス。これ、単なる「通知が見れるメガネ」じゃないんです。Gizmodoなどの報道を見る限り、これは「最強のAI(Gemini)が、あなたの目と耳をジャックして、脳みそを拡張するデバイス」になりそうです。
想像してみてください。
海外のクライアントとランチをしている時、相手の英語がリアルタイムで字幕のように視界に浮かぶ様子を。あるいは、故障したサーバーラックの前で途方に暮れている時、配線を見るだけで「あ、その赤いケーブルが断線しかけてますよ」と耳元でAIが囁いてくれる未来を。
「スマホを取り出して、アプリを開いて、カメラを向ける」
この数秒の動作すら、もうまどろっこしい時代が来ようとしています。
この記事では、Googleの最新AIグラスがなぜ「DXの最終兵器」になり得るのか、そして私たち企業の現場(特に情シスや経営企画の方々!)は、この波にどう乗るべきか。あえて「カタログスペック」の話はそこそこに、ビジネスの現場でどう化けるかという視点で、本音で深掘りしていきます。
Google AIグラス×Geminiで「できること」の次元が違う

「見て、聞く」だけで完結するマルチモーダル体験
まず、技術的な土台を押さえておきましょう。この新しいグラスの核心は、ハードウェアではなく、中身の「Gemini(ジェミニ)」にあります。
これまでの音声アシスタント(Siriや従来のGoogleアシスタント)は、正直「言葉」しか理解してくれませんでした。「天気を教えて」と言えば答えてくれますが、「この目の前にある花の名前は?」と聞くには、スマホを出してGoogleレンズを起動する必要がありましたよね。
今回のAIグラスは違います。マルチモーダルなんです。
マルチモーダルとは、テキスト、音声、画像、動画など、異なる種類の情報を同時に処理できる能力のこと。つまり、あなたがグラス越しに見ている「映像」と、あなたが発する「声」を、AIが同時に理解します。
Googleが公開した「Project Astra」のデモ映像を見たときの衝撃は忘れられません。ユーザーが「私のメガネ、どこに置いたっけ?」と聞くと、AIが「ああ、さっきキッチンのテーブルの上に置いてありましたよ」と答えるんです。AIが、あなたの視界を常に共有し、記憶している。これ、すごくないですか?(同時にちょっと怖いですが、その話は後ほど。)
Meta Ray-Banとの決定的な違いは「脳みそ(Gemini)」のIQ
「でも、カメラ付きメガネならMeta(Facebook)がRay-Banと組んで出してるじゃないか」
そう思った方、鋭いです。確かにMetaのスマートグラスは現在市場をリードしており、デザインも洗練されています。
しかし、Googleの強みは圧倒的な「検索データベース」と「推論能力」の結合にあります。MetaのAIも進化していますが、Googleは私たちが過去20年間検索してきた膨大なデータと、Gmailやカレンダー、Googleマップといった生活インフラを握っています。
例えば、街中でレストランの看板を見たとします。
Metaのグラスなら「これはイタリアンレストランです」と教えてくれるでしょう。
一方、GoogleのAIグラスなら、「これはイタリアンレストランです。ちなみに、来週の火曜日にあなたが予約しているお店の系列店で、評価は4.5。今なら席が空いていますよ」と、文脈(コンテキスト)まで読んで提案してくる可能性があります。
単なる「カメラ」か、文脈を理解する「秘書」か。この違いが、ビジネスユースでは決定的な差になります。
スマホを取り出す時間すら「無駄」になる世界観
私たちは1日に何回スマホのロックを解除しているでしょうか? 平均で数十回から100回以上と言われています。そのたびに作業の手は止まり、思考は分断されます。
Google AIグラスが目指しているのは、この「断絶」をなくすことです。
- ポケットからスマホを出す動作:0回
- アプリを探す時間:0秒
- 入力の手間:ゼロ
情報を得るためのコストが極限までゼロに近づく。これが「手ぶらDX」の本質です。
【現場別】AIグラスが変えるビジネスシーンの具体例
では、具体的に企業の現場はどう変わるのか? 妄想レベルではなく、今のGeminiの能力から逆算して「明日実現してもおかしくない」シーンを描いてみます。
フィールドワーク・保守点検:マニュアル不要の「リアルタイム指示」
製造業やインフラメンテナンスの現場は、最も恩恵を受ける領域でしょう。
新人スタッフが複雑な機械のメンテナンスを行う場面を想像してください。
【Before】
分厚いマニュアルを片手に持ち、汚れた手袋を外してタブレットを操作し、図面と実機を何度も見比べる。「あれ、このバルブで合ってるっけ?」と不安になりながら作業する。
【After (With AI Glass)】
両手はフリー。汚れた手袋のまま作業可能。
対象の機械を見ると、グラスのディスプレイ(または音声)に「手順1:右上の赤いレバーを下げてください」と指示が出る。
もし間違ったレバーに手を伸ばそうとすると、「ストップ! それは排気弁です。触らないで!」と警告が入る。
これは、熟練工が常に後ろで見守ってくれているのと同じ状態です。教育コストの劇的な削減と、事故率の低下。経営層が飛びつきたくなるROI(投資対効果)がここにはあります。
グローバル会議:同時通訳デバイスとしての「破壊的コストパフォーマンス」
次にオフィスワーク。特に言語の壁です。
Googleの「リアルタイム翻訳」の精度は、ここ数年で飛躍的に向上しました。これをグラスでやる意味は絶大です。
これまでは、翻訳アプリの画面を交互に見せ合ったり、翻訳イヤホンを使っていましたが、どうしても「会話の間」が悪くなりがちでした。
AIグラスなら、相手の顔を見ながら、視界の隅に字幕が表示されるスタイルが可能になります。相手の表情(非言語情報)を見逃さずに、内容を理解できる。
「あ、この人、口ではYesと言ってるけど、表情は納得してないな」
そういった機微を感じ取りながら商談ができるのは、スマホ越しの翻訳にはないメリットです。
エンジニア・クリエイター:コードレビューもホワイトボード議論も「見るだけ」
個人的に期待しているのが、クリエイティブや開発の現場での活用です。
Project Astraのデモでは、ホワイトボードに書かれた数式やコードをAIが見て、「この変数の定義、間違ってない?」と指摘したり、「この図式の意味は、システムアーキテクチャの冗長化を示していますね」と解説したりしていました。
エンジニア同士がホワイトボードの前で議論し、その内容をAIがリアルタイムで議事録化し、さらに論理的矛盾を指摘する。
「三人目の天才エンジニア」としてGeminiが会議に参加する未来。これだけで、開発スピードは数倍になるかもしれません。
Apple・Meta・Google…覇権争いの行方と導入リスク
さて、ここで競合他社にも触れておきましょう。現状、スマートグラス/ヘッドセット市場は三つ巴の様相を呈しています。
| 特徴 | Apple Vision Pro | Meta Ray-Ban | Google AI Glass (Gemini) |
|---|---|---|---|
| 形状 | ゴーグル型(重い) | サングラス型(軽い) | メガネ型(軽量想定) |
| 主戦場 | 屋内・没入体験 | SNS・日常の記録 | 情報検索・アシスタント |
| 強み | 圧倒的な画質とUX | スタイリッシュ・手軽 | AIの賢さ・Google連携 |
| 価格 | 超高額 | お手頃 | 未定(中間狙い?) |
ビジネスユースで考えると、Apple Vision Proは「定位置でのクリエイティブ作業」には最強ですが、着けたまま営業には行けません(相手が引きます)。Metaは手軽ですが、ビジネス連携の部分でGoogle Workspaceを持つGoogleに分があります。
「普段使いできて、仕事にも直結する」というスイートスポットを、Googleは狙っているわけです。
情シスが直面する「カメラ持ち込み」と「プライバシー」の壁
しかし、ここで企業導入における最大のハードルが登場します。「カメラ付きデバイスを社内に持ち込んでいいのか問題」です。
情シス担当の皆さん、頭が痛いですよね。
「社員が見ているものが全てGoogleのサーバーに送られるのか?」
「機密書類が写り込んだらどうする?」
「会議の音声がAIの学習に使われたら情報漏洩ではないか?」
Googleもおそらく、企業向けエンタープライズ版(学習に使わない設定や、ローカル処理の強化)を用意してくるでしょう。しかし、それでも「カメラが常にこちらを向いている」という心理的抵抗感は、簡単には拭えません。
Google Glassが一度失敗した最大の理由は「盗撮への懸念(Glassholeと呼ばれましたね)」でした。あれから10年経ち、みんなスマホで動画を撮ることに慣れたとはいえ、オフィス内での常時着用が市民権を得るには、明確なガイドラインと「録画中はランプが点灯する」といった物理的な安心材料が不可欠です。
まとめ:デバイスの進化を待つか、今すぐGeminiで予習するか
最後に、私たちビジネスパーソンが今やるべきことを整理しましょう。
GoogleのAIグラスがいつ発売されるか、正確な日はまだわかりません。しかし、待っているだけでは遅いです。なぜなら、「AIグラスでできること」のほとんどは、実は今のスマホ版Geminiアプリでも(擬似的に)体験できるからです。
明日からできる「プレ体験」
- スマホのGeminiアプリで「マルチモーダル」を試す
- カメラを起動し、手元の書類やPC画面を映して「これ要約して」「このコードのエラーどこ?」と聞いてみてください。AIが「視覚情報」をどう処理するか、その癖をつかめます。
- 業務フローの「ハンズフリー化」余地を探る
- 「もし両手が空いていたら、この作業は半分で終わるのでは?」という業務をリストアップしておきましょう。デバイスが出た瞬間、そこがDXの急所になります。
結論:これは「メガネ」の話ではない
Google AIグラスは、単なる新しいハードウェアではありません。
「インターネットそのものを、画面の中から現実世界へ引っ張り出す」試みです。
これまでは、私たちがインターネットの世界(画面)に入り込んで情報を取りに行っていました。これからは、私たちが生きる現実世界に、インターネットの方から情報が重なってやってきます。
そのパラダイムシフトに、あなたの会社は、そしてあなた自身の働き方は、対応できていますか?
まずは手元のスマホのGeminiに話しかけることから、未来の予習を始めてみてください。「OK, Google」とは違う、もっと自然な対話がそこにあるはずです。
