
| この記事でわかること |
|
| この記事の対象者 |
|
| 効率化できる業務 |
|
「あのデータ、どこにあるんだっけ?」
会議の直前に、必要な数字を探してCRM(顧客管理システム)の画面を行ったり来たりする。そんな経験、ありませんか?
多くの企業がHubSpotのような優れたCRMを導入しながらも、結局はデータをCSVでエクスポートし、Excelやスプレッドシートで手作業の集計に追われています。これでは、「データに基づいた意思決定」どころか、「データ整理のための残業」が生まれるだけです。
そんな中、HubSpotがOpenAIとの連携を強化し、「Deep Research Connector」という機能を発表しました。これは、単なるチャットボットではありません。あなたのPCの中に、「文句ひとつ言わずに24時間働いてくれる専属のデータアナリスト」が常駐するようなものです。
今回は、この新機能が私たちの「仕事の進め方」をどう変えるのか、そして来たる「Agentic AI(エージェント型AI)」時代に私たちがどう備えるべきか、いち早く解説します。
1. HubSpot Deep Research Connectorとは何か?

まず、基礎知識を整理しましょう。
HubSpotのDeep Research Connectorは、ChatGPTがHubSpot内の「ライブデータ(リアルタイムの顧客情報)」に直接アクセスし、高度な分析を行う機能です。
今までも、ChatGPTにデータをCSVでアップロードして分析させることはできました。しかし、このConnectorの革新的な点は、APIを通じて常に最新のCRMデータ(連絡先、会社、取引、チケット、カスタムオブジェクトなど)を読みに行けるという点です。
「チャット」と「Deep Research」の決定的な違い
ここで重要なのが、この機能には「Chat(チャット)」と「Deep Research(ディープリサーチ)」の2つのモードがあることです。
- Chat(チャット):
- 「今月クローズ予定の取引一覧を出して」
- 「先週のチケット件数は?」
- 日常的な業務効率化や、単発の質問に適しています。
- Deep Research(ディープリサーチ):
- 「過去3ヶ月で失注した案件のうち、『価格』が理由だったものをリストアップし、その傾向を企業規模別に分析して。さらに改善策を提案して」
- 複数のデータを横断し、仮説検証を行い、引用元を明示したレポートを作成します。
このConnectorを使うと、ChatGPTは単に言葉を返すだけでなく、「あなたの代わりにHubSpotの中を探索(Research)し、分析官として振る舞う」ようになります。
2. 現場の風景はどう変わる? 具体的な活用シーン
では、実際にこの機能を導入すると、日々の業務はどう変わるのでしょうか? 具体的なシーンを想像してみましょう。
【営業マネージャー編】月曜朝の憂鬱な会議が激変する
月曜日の朝、営業進捗会議。「今月の着地見込みはどうなってる?」と部下に聞くと、「ええと、多分大丈夫です」という曖昧な返事……。よくある光景ですよね。
Deep Research Connectorがあれば、会議の前にこう入力するだけです。
「今月クローズ予定の取引のうち、過去10日間アクティビティ(メールや会議)がない案件をリストアップして。また、その中で金額が500万円以上のものを優先順位付きで教えて」
すると、AIは瞬時にCRM内を走り回り、「放置されている高額案件リスト」を提示します。
あなたは会議でこう言うだけです。「A社とB社の案件、10日間止まってるけど、何かあった? 今日フォローしておこうか」。データの集計作業はゼロ。「対策を考える時間」だけが残ります。
【マーケティング担当編】「どの施策が効いた?」に即答する
マーケティングの現場では、「リード(見込み客)は増えているけど、商談の質はどうなの?」という質問が一番答えにくいものです。
これからは、こう聞いてください。
「第2四半期に獲得したリードの中で、実際に商談化(Deal作成)まで進んだ人たちの『流入元』の傾向を分析して。特に、どのキャンペーン経由のリードが最も受注率が高い?」
従来なら、MAツールとCRMのデータを突き合わせ、Excelで数時間格闘していた作業です。これが数秒で終わります。「Web広告よりも、実は3月のウェビナー参加者の方が受注率が2.5倍高い」といったインサイトが即座に出れば、次の予算配分は迷いません。
【カスタマーサクセス編】解約の予兆を察知する
「過去半年で解約になった顧客の、解約直前のサポートチケットの内容を要約して。共通する『不満のキーワード』はある? また、季節ごとの問い合わせ増加傾向も分析して」
こう聞けば、解約を防ぐためのアラート基準や、スタッフィング(人員配置)の最適解が見えてくるはずです。
3. 導入の壁とセキュリティ(情シス・管理職の方へ)
ここまで読んで、「便利そうだけど、セキュリティは? 勝手にデータを書き換えられたりしない?」と不安になった方もいるでしょう。その感覚は非常に正しいですし、企業として守るべきラインです。
「Read-only(読み取り専用)」という安心感
HubSpot Deep Research Connectorの最大の安心材料は、基本的に「読み取り専用(Read-only)」であることです。ChatGPTが勝手に顧客データを削除したり、金額を書き換えたりすることはありません。あくまで「分析官」であり、操作権限を持つ「アシスタント」ではないのです。
権限設定はそのまま引き継がれる
また、「HubSpot側の権限設定を継承する」という点も重要です。 例えば、関西支社の営業担当が、自分に見る権限のない「関東支社の案件データ」をChatGPT経由で覗き見ようとしても、それはブロックされます。HubSpot上で見られないデータは、ChatGPT経由でも見られません。
4. 私たちが準備すべき「コンテキスト・エンジニアリング」
ツールが進化しても、使う人間が進化しなければ効果は半減します。この「AI分析時代」に、私たち人間に求められるスキルとは何でしょうか?
私は、これまでの「プロンプトエンジニアリング(指示出しの技術)」から、「コンテキストエンジニアリング(文脈設計の技術)」へシフトする必要があると考えています。
AIは計算は速いですが、「そもそも何を分析すべきか」という問いを立てることはできません。
- × AI任せ:「何かいい感じの分析をして」
- ○ 人間の仕事:「今、売上が停滞している原因は『初回商談の質』にあるのではないか? という仮説がある。これを検証するために、初回商談後のフェーズ移行率を、担当者別に比較してほしい」
このように、「ビジネスの課題(コンテキスト)」を言語化し、仮説を持ってAIに問いかける能力。これこそが、AIに代替されない、これからのビジネスパーソンの核心的なスキルになります。
また、そもそもHubSpotの中に「ゴミデータ」が入っていれば、AIからは「ゴミの分析結果」しか出てきません(Garbage In, Garbage Out)。データの入力ルールを徹底し、CRMをきれいに保つことの重要性は、AI時代になってむしろ高まっています。
5. FAQ(よくある質問)
導入を検討される方からよくいただく質問をまとめました。
Q1. この機能を使うには、追加料金がかかりますか?
HubSpot側のアカウント(無料プラン含む全ティア対応)に加え、ChatGPT側の有料プラン(Plus, Team, Enterprise, Edu)が必要です。無料版のChatGPTでは利用できません。
Q2. データの反映はリアルタイムですか?
はい、APIを通じてライブデータにアクセスするため、直前に更新されたステータスも反映されます。古いCSVを読み込ませるタイムラグから解放されます。
Q3. 複雑なカスタムオブジェクトも分析できますか?
はい、対応しています。連絡先や取引などの標準オブジェクトだけでなく、自社独自の「契約管理」や「機器管理」などのカスタムオブジェクトも分析対象にできます。
6. まとめ:次はあなたの番です
HubSpot Deep Research Connectorは、CRMを単なる「顧客データベース」から「経営の羅針盤」へと進化させる強力なツールです。
- SQL不要で、誰でも高度な分析ができる。
- Read-onlyで、セキュリティリスクを抑えつつ活用できる。
- 時間は「集計」ではなく「意思決定」に使う時代へ。
「AIは仕事を奪う」と恐れるのではなく、「AIという優秀な部下を使いこなす」と捉えてみてください。まずは、自社のChatGPT有料アカウントからHubSpotに接続できるか、情シス部門に相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか?
もし、「自社のデータがぐちゃぐちゃで、AI以前の問題だ……」とお悩みであれば、まずはデータのクレンジング(整理)から見直す良い機会かもしれません。AIと共に働く未来は、もう目の前に来ています。
引用元
Martech「HubSpot announces deep research connector to ChatGPT」
