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「来週の役員会議までに、この市場の需給バランスと将来予測をまとめておいてくれ」
金曜日の夕方、上司からこんな無茶振りをされた経験はありませんか? これまでは、そこから地獄のような週末が始まっていました。官公庁のサイトを巡回して統計データを探し出し、フォーマットのバラバラなExcelをダウンロードし、結合して、クレンジングして……。分析のスタートラインに立つころには、もう日曜の夜、なんてことも珍しくありませんでした。
しかし、そんな「泥臭いデータ作業」の時代が、音を立てて崩れ去ろうとしています。
2025年5月、AI検索エンジン「Perplexity」が発表した新機能「Labs」。このAIエージェントが、なんと「コメの需給予測モデル」をわずか10分で構築してしまったというニュースが、ビジネス界に衝撃を与えています。
「たかがAIの検索でしょ?」と思ったあなた。少し待ってください。これは従来の検索とは次元が違います。AIが自ら考え、コードを書き、実行し、結論を出す——まさに「優秀なアナリスト」があなたのPCの中にやってきたようなものです。
本記事では、この衝撃的なニュースを起点に、Perplexity Labsが経営企画やDX推進の現場にどのような革命をもたらすのか、そして私たちはどう「彼ら」と協働すべきなのかを、徹底的に深掘りしていきます。
Perplexity「Labs」とは何か:ただの検索エンジンではない

まず、誤解を解いておきましょう。「Perplexity」と聞いて、「ああ、出典を出してくれる便利なAI検索ね」と思った方は、認識をアップデートする必要があります。今回話題になっている「Labs」は、これまでの検索機能(Pro Search)とは一線を画す存在です。
「検索するAI」から「推論・実行するAI」へ
これまでの生成AIや検索AIは、ネット上の情報を「探して、まとめる」のが主な仕事でした。 「日本のコメの生産量は?」と聞けば、農林水産省のページを見つけて数字を教えてくれる。これはこれで便利ですが、あくまで「情報の提示」に過ぎません。
しかし、Labsは違います。Labsには大きく2つの強力な武器が備わっています。
- 高度な推論能力(Reasoning): OpenAIの「o1」モデルのように、複雑な問題をステップ・バイ・ステップで論理的に考え抜く力を持っています。「需給予測モデルを作れ」と言われたら、「まずは過去の生産データが必要だ」「次に消費動向だ」「天候の影響も考慮すべきか?」といった思考プロセスを自律的に構築します。
- コード実行環境(Code Interpreter / Sandbox): これが最大の革新です。Labsは、思考した結果を元にPythonなどのプログラミングコードを自ら書き、それを内部の安全な環境で実際に実行します。ネット上の生データを取得し、計算し、グラフを描画するところまで、人間の手を借りずに完結させるのです。
つまり、Labsは「検索エンジン」ではなく、「推論と実行ができる自律型エージェント」なのです。
なぜ今、「エージェント型」が重要なのか
経営企画やDXの現場において、ボトルネックになっているのは「情報の欠如」ではなく、「情報の加工と統合」にかかるコストです。
データは世の中に溢れています。しかし、それを意思決定に使える形(インサイト)にするためには、膨大な手間がかかります。Labsのようなエージェント型AIは、この「加工・統合」のプロセスを劇的に圧縮します。これは、社員が「作業者」から「監督者」へとシフトすることを意味しており、DXの本丸とも言える変化なのです。
【実演】コメ需給予測モデル構築の裏側

では、冒頭のニュースにある「コメ需給予測モデル」の事例を具体的に見ていきましょう。このプロセスを知れば知るほど、その凄まじさが分かります。
人間なら3日、AIなら10分
通常、人間が「コメの需給予測」を行おうとしたら、以下のような手順を踏むはずです。
- データ探索: 農林水産省のWebサイトへ行き、食料需給表や作況指数の統計データを探す。
- データ取得: PDFやExcelなど、扱いづらい形式のファイルをダウンロードする。
- データ整形: 元号と西暦が混在していたり、セル結合されていたりするExcelを、分析可能なCSV形式に直す(※ここが最も辛い作業です)。
- モデリング: PythonやR、あるいはExcelの高度な関数を使って、回帰分析などの予測モデルを作る。
- 可視化: 結果をグラフにして、パワポに貼る。
Perplexity Labsは、この工程をたった一つのプロンプト(指示)からスタートさせ、約10分で完結させました。
驚くべき「自己修正」能力
特筆すべきは、Labsが一度で完璧な答えを出したわけではない、という点です。
報道によれば、Labsはプロセスの途中でエラーに直面しています。取得したデータの形式が予想と違ったり、コードの実行に失敗したりしたのです。しかし、Labsはそこで止まりません。 「あ、このデータの読み込みでエラーが出たな。じゃあ、別のライブラリを使って読み込んでみよう」 といった具合に、自分でエラーを読み解き、コードを書き直して、再実行したのです。
この「粘り強さ」こそが、これまでのAIにはなかった点です。ChatGPTにコードを書かせてエラーが出た時、「エラーが出ました」と人間に泣きついてくるのではなく、自分で解決策を試行錯誤してゴールまで辿り着く。これはもはや、優秀な新人エンジニアと言っても過言ではありません。
Point: Labsの真価は「一発で正解を出すこと」ではなく、「試行錯誤してゴールに到達する自律性」にあります。
経営・DX部門はどう活用すべきか?導入への3ステップ
「すごい技術だ」で終わらせてはいけません。重要なのは、これを自社のビジネスにどう組み込むかです。明日から使える実践的な活用ステップを提案します。
Step 1: 仮説検証の高速化(リサーチ業務の代替)
まずは、これまで外部の調査会社に依頼していたり、若手社員が数日かけていた「初期リサーチ」をLabsに任せてみましょう。
- 活用シーン:
- 新規参入を検討している市場の成長率推移のグラフ化
- 競合他社(上場企業)の過去5年間の営業利益率比較
- 特定原材料の価格変動と為替レートの相関分析
プロンプトのコツ: 「〇〇市場の過去10年の推移を調査し、Pythonを使って相関係数を算出し、グラフ化してください」と具体的に指示します。「Pythonを使って」と明記することで、単なるテキスト要約ではなく、データ分析モードを引き出しやすくなります。
Step 2: 「ドラフト」としての利用
AIのアウトプットをそのまま役員会に出すのはリスクがあります(ハルシネーションの可能性はゼロではありません)。しかし、「議論のたたき台(ドラフト)」としては最高です。
例えば、中期経営計画の策定時。「楽観シナリオ」「悲観シナリオ」のシミュレーションをLabsに作らせます。人間はその数字を精査し、「この前提条件は甘いのではないか?」「ここの係数を変えたらどうなる?」といった「修正と評価」に集中します。
ゼロから1を作る苦しみをAIに肩代わりさせ、人間は1を10にするブラッシュアップに専念するのです。
Step 3: 意思決定プロセスの再定義
Labsのようなツールが浸透すると、会議のあり方も変わります。 「データがないから来週持ち越しで」という言い訳は通用しなくなります。「その場でAIに分析させ、その場で議論する」というリアルタイム経営が可能になるからです。
DX推進部は、ツールを導入するだけでなく、こうした「意思決定のスピード感の変革」を社内に啓蒙していく必要があります。
AIが「考える」時代のリスクとガバナンス
光があれば影もあります。Labsのような強力なツールを企業で使う際、情シスや人事部が押さえておくべきリスクと対策について触れておきます。
1. データの取り扱いとセキュリティ
Perplexity Labsがコードを実行する際、どのような環境で処理されているのかを理解する必要があります。一般的に、Enterprise版(企業向けプラン)であれば、入力データが学習に使われない設定が可能です。 しかし、「未発表の新製品データ」や「顧客の個人情報」を安易にアップロードするのはNGです。まずは「公開情報(Open Data)の分析」から始め、社内規定を整備した上で、機密情報の取り扱いレベルを定めていくべきです。
2. 「AI任せ」による人材の空洞化
これは人事部にとって深刻な課題です。 若手が「データ整形」や「一次情報の探索」といった下積みを経験せず、いきなりAIの出力結果だけを見るようになると、「データの肌感覚」を持たない社員が増える恐れがあります。
数字の違和感に気づく「審美眼」は、泥臭い作業の中で養われる側面もあります。AI時代の人材育成においては、「AIが出した答えを、論理的かつ批判的に検証するトレーニング」を意図的に組み込む必要があります。
3. ハルシネーション(幻覚)のリスク
Labsはコードを実行するため、計算ミスは減りますが、「元データの参照先を間違える」可能性は残ります。 「このグラフの出典はどこか?」「なぜこの統計データを選んだのか?」というソースの確認は、人間が必ず行う「最後の砦」として機能しなければなりません。
AIが「考える」時代の人材戦略と組織論
Labsの登場は、私たちホワイトカラーの仕事の定義を根本から問い直しています。
これまでは、「ExcelやSQLを使いこなしてデータを集計できる人」が重宝されてきました。しかし、そのスキル自体の価値は、急速にコモディティ化(一般化)しています。10分でAIができる作業に高い給料を払う会社はありません。
これからの時代に求められるのは、以下の2つの力です。
- 問いを立てる力(Issue Setting): 「コメの需給を予測せよ」というお題があればAIは解けます。しかし、「そもそも我が社はコメ市場に参入すべきか?」「リスク要因は何か?」という「解くべき課題」を発見し、定義する力は人間にしかありません。
- キュレーションと意思決定(Decision Making): AIが出してきた複数のシナリオの中から、「会社のビジョンや倫理観に照らして、どれを選ぶか」を決める力です。これは論理だけでは割り切れない、覚悟と責任を伴う領域です。
組織としては、社員を「作業者」から「ディレクター」へと転換させるためのリスキリングが急務です。
まとめ:思考するAIと共に、経営の解像度を上げる
Perplexity Labsによる「コメ需給予測10分完了」のニュースは、単なる技術的なマイルストーンではありません。ビジネスの速度制限が解除された瞬間でもあります。
本記事の要点まとめ:
- Labsは別物: 単なる検索ではなく、推論し、コードを書き、自己修正する「エージェント」である。
- 圧倒的時短: データ収集・整形・可視化という「最も面倒な工程」を90%以上削減できる。
- 人間役割の変化: 「作業」から「問いの設定」と「結果の評価」へシフトする。
- リスク管理: セキュリティと人材育成(批判的思考)の両輪でガバナンスを効かせる。
明日からのアクション:
まずは、Perplexity(無料版でも一部機能は試せますし、Pro版ならフル機能が使えます)を使って、「自社の業界の過去10年のトレンド分析」を指示してみてください。 そして、出てきたアウトプットをチームで見ながら、「これを人間がやったら何時間かかったか?」「浮いた時間でどんな議論ができるか?」を話し合ってみてください。
AIは、私たちの仕事を奪う敵ではありません。 私たちの視座を高め、経営の解像度を上げてくれる、最強の「パートナー」なのです。
さあ、その頼もしいパートナーと共に、あなたの会社のDXを次のステージへ進めましょう。
