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「AIがプログラムコードを書いてくれるなら、もう人間が苦労してプログラミングを学ぶ必要はないんじゃないか?」
正直なところ、経営企画やDX推進の現場にいる皆さんの本音はこれではないでしょうか。GitHub CopilotやChatGPTが、ものの数秒で美しいコードを生成する様子を見れば、そう思うのも無理はありません。
しかし、結論から言います。その考えは、極めて危険な賭けです。
むしろ現実は逆です。AIが進化すればするほど、私たち人間が持つ「コーディングスキル」や「システムの仕組みを理解する力」は、これまで以上に重要になってきています。なぜなら、AIは「優秀なライター」にはなれても、最終的な責任を負う「編集長」にはなれないからです。
本記事では、ZDNetの最新レポートや現場の知見をベースに、なぜ今あえて「人間のスキル」に投資すべきなのか、その逆説的な理由と、企業が取るべき人材戦略について深掘りしていきます。
「AIに任せればOK」という巨大な落とし穴

AIは「副操縦士」。機長はあなたです
まず、前提を共有させてください。AIは魔法の杖ではありません。現在のAIコーディングツール(GitHub Copilotなど)は、あくまで「Co-pilot(副操縦士)」と名乗っている通り、操縦をサポートする存在です。
想像してみてください。飛行機の自動操縦システムがどれほど優秀でも、計器の意味も航空力学も全く知らない人が機長席に座っていたらどうなるでしょうか? イレギュラーな事態が発生した瞬間、墜落の危機に直面しますよね。
システム開発も同じです。AIは、過去の膨大なデータから「確率的に正しそうなコード」を提示しているに過ぎません。そのコードが、あなたの会社のセキュリティポリシーに合致しているか、将来的な拡張性を損なわないか、といった「文脈」までは理解していないのです。
「ブラックボックス化」という時限爆弾
私が最も懸念しているのは、システムの中身が「誰も理解できないブラックボックス」になってしまうことです。
「動けばいいじゃないか」と思うかもしれません。しかし、AIが書いたコードを、中身を理解せずにコピペで継ぎ足していくとどうなるか。 ある日突然システムが停止したとき、社内の誰も「どこが悪いのか」「どう直せばいいのか」わからなくなります。これが「技術的負債」と呼ばれるものの、AI時代の新しい形です。
かつてないスピードでコードが生成される分、かつてないスピードで負債が積み上がっていく。これを防げるのは、コードを一行一行読み解ける「人間の目」だけなのです。
定義の再考:これからの「コーディングスキル」とは?
「じゃあ、今まで通り構文を暗記させればいいのか?」というと、それも違います。 AI時代に求められる「コーディングスキル」の定義は、大きく変わりました。
「書く力」から「読む力・問う力」へ
これまでのエンジニアは、ゼロからコードを「書く(Writing)」スピードが価値でした。しかし、これからは「AIが書いたコードを読み解く(Reading)」力と、「正しく動くか検証する(Reviewing)」力こそがコアスキルになります。
- Before:JavaやPythonの文法を正確に暗記している
- After:AIが提示したロジックの欠陥を見抜き、より良い設計を指示できる
これは、新人作家の原稿をチェックするベテラン編集者のスキルに似ています。違和感に気づき、「ここはセキュリティ的に甘いから書き直して」とAIに指示を出せるか。この「目利き」の力がないと、AIツールはただの「バグ製造機」になりかねません。
「計算論的思考」という共通言語
ZDNetの記事でも触れられていますが、重要なのはプログラミング言語そのものよりも「計算論的思考(Computational Thinking)」です。
これは、複雑な問題をコンピュータが処理可能な小さな単位に分解し、手順(アルゴリズム)を組み立てる論理的思考力のこと。この思考プロセスさえあれば、将来プログラミング言語が変わっても、あるいはAIへの指示出し(プロンプト)であっても、応用が効きます。
経営層やDX担当者にとって、この「計算論的思考」は、エンジニアと対話し、ビジネス要件をシステムに落とし込むための「共通言語」になります。
まとめ:人間は「技術の指揮者」になれ
最後に、改めて強調したいことがあります。 AIの進化によって、コーディングの参入障壁は劇的に下がりました。しかし、「プロフェッショナルとしての品質を担保するハードル」は、むしろ上がっています。
- AIはコードを書けるが、責任は取れない。
- AIはパターンを知っているが、文脈(コンテキスト)は知らない。
- だからこそ、人間が「読み、評価し、設計する」スキルが不可欠になる。
これからのDX人材育成において、どうか「AIがあるから基礎訓練は不要」という安易な道を選ばないでください。基礎があるからこそ、AIという最強の武器を使いこなせるのです。
あなたの会社のエンジニアや社員が、AIに使われるのではなく、AIを指揮する「マエストロ(指揮者)」になれるよう、今こそ人間ならではのスキル(=泥臭い基礎理解と論理的思考)に投資をしてください。それが、5年後、10年後の企業の競争力を決定づけるはずです。
