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2025年11月、DeNAが発表した2026年3月期 第2四半期(2025年4月〜9月)の連結決算。その数字を見て、思わず二度見した方も多いのではないでしょうか。
売上収益は前年同期比18.3%増の831億円、そして営業利益はなんと354.1%増の249億円。
この驚異的な数字を叩き出した背景には、何があるのか。そして、DeNAの岡村信悟CEOが「AIにオールインする」と宣言したAI戦略は、この好調な決算の中でどのような位置づけにあるのでしょうか?
この記事では、DeNAの最新決算を「ゲーム事業の圧倒的な成功」と「AI戦略の現在地」という2つの側面から深掘りします。
企業の経営企画部やDX推進部の方にとって、「稼ぐ事業(キャッシュエンジン)」と「未来への投資(AI)」のバランスをどう取るべきか、そのリアルな事例として、DeNAの戦略は非常に示唆に富んでいます。
- 絶好調の決算、その中身はどうなっている?
- AI戦略は「赤字」なのに、なぜDeNAはアクセルを踏み続けるのか?
- あなたの会社のAI戦略は、「コスト削減」だけで終わっていませんか?
DeNAの「今」と「未来」を、一緒に見ていきましょう。
衝撃の営業利益354%増。DeNA中間決算、明暗分かれた「ゲーム」と「AI」

まずは、驚くべき決算内容から具体的に見ていきましょう。今回の決算は、DeNAの「強み」と「課題」がはっきりと数字に表れた、非常に興味深い内容となっています。
決算ハイライト:何がDeNAをここまで押し上げたのか?
2026年3月期第2四半期累計(2025年4月1日~9月30日)の連結決算は、以下の通りです。
- 売上収益:831億5100万円(前年同期比18.3%増)
- 営業利益:249億4600万円(同354.1%増)
- 税引前利益:297億4300万円(同401.3%増)
- 最終利益:230億2700万円(同667.7%増)
営業利益が約3.5倍、最終利益に至っては約6.7倍。まさに「大幅増益」という言葉がふさわしい結果です。ライブストリーミング事業(Pococha)の黒字化や、スポーツ事業(横浜DeNAベイスターズ)の好調も貢献していますが、最大の牽引役は明らかです。
そう、ゲーム事業です。
主役は『ポケポケ』!ゲーム事業、利益率615%増の異次元
「DeNAのゲームが好調」と聞いても、ピンとこない方もいたかもしれません。しかし、今回の数字は衝撃的です。
ゲーム事業単体のセグメント業績を見てみましょう。
- 売上収益:335億7400万円(前年同期比48.9%増)
- セグメント利益:170億3900万円(同615.8%増)
売上もさることながら、利益が615%増というとんでもない伸びを記録しています。
この爆発的な成長の主役が、2024年10月30日にリリースされた『Pokémon Trading Card Game Pocket』(公式略称:ポケポケ)です。リリースから1年が経過した現在も「引き続き大きく貢献」しており、DeNAの業績拡大を強力に牽引しています。
まさに『ポケポケ』が、会社全体の収益を支える「金のなる木」としてフル稼働している状態です。
一方、AI関連事業は「赤字拡大」。投資フェーズの現実
さて、ここで注目したいのが、もう一つの側面です。 『ポケポケ』フィーバーに沸く一方で、DeNAが全社を挙げて推進する「AI戦略」はどうなっているのでしょうか?
AI関連の取り組みは、「新規事業・その他」セグメントに含まれています。こちらの業績はどうだったかというと…。
- 売上収益:12億5300万円(前年同期比25.2%減)
- セグメント損失:12億9100万円(前年同期は5億500万円の損失)
なんと、AI関連事業は赤字が拡大しているのです。
ゲーム事業が170億円もの利益を生み出している裏で、AI事業は12億円以上の赤字。この対比こそが、今回の決算の最大のポイントです。
「AIにオールインするのではなかったのか?」「結果が出ていないじゃないか」—そんな声が聞こえてきそうですが、岡村CEOの見方はまったく異なります。
岡村CEOが語る「AIにオールイン」戦略の真意と現在地
好調な決算報告の中でも、岡村CEOの視線は「AI」に向いています。AI事業が赤字である現状を、彼はどう捉えているのでしょうか。
なぜ今、全社でAIに賭けるのか?
岡村CEOは、AI関連の取り組みについて「すぐに成果が出るわけではない。ある程度投資が必要になる」と冷静に分析しています。
これは、企業のDX推進を担当する方なら、痛いほどわかる感覚ではないでしょうか。AI導入には初期投資や人材育成が不可欠であり、それが短期的な利益に結びつくとは限りません。
しかし、岡村CEOは続けます。「AIの世界は、これまでとスピード感が違う」と。
「スピード感が違う」— AI時代の経営トップの覚悟
この「スピード感」という言葉に、岡村CEOの強烈な危機感と覚悟が表れています。
彼が言いたいのは、従来のビジネスのように「数年かけてじっくり投資・回収」というサイクルが、AIの世界では通用しないということです。今、この瞬間に投資し、検証し、失敗し、学習しなければ、あっという間に時代遅れになる。
だからこそ、DeNAは「AIにオールインする」と宣言し、赤字覚悟でアクセルを踏み続けているのです。
これは、経営企画部やDX推進部にとって、自社の経営陣に問いかけたいポイントかもしれません。「あなたの会社は、AIのスピード感に対応できていますか?」と。
具体的な進捗:新規AIサービス20企画が進行中
では、その「投資」は具体的に何に使われているのでしょうか。 DeNAは、AIの活用を大きく2つの側面で進めています。
- 既存事業の生産性向上(守りのAI)
- AIを活用した新規事業の創出(攻めのAI)
特に「攻めのAI」として、現在、約20もの新たなAIサービスを企画しており、そのうち複数サービスはすでに社内テスト段階にあるといいます。
ゲーム事業で稼いだ莫大なキャッシュを、未来の事業の「種」であるAIに注ぎ込む。このダイナミックな構図こそ、DeNAの「AIにオールイン」戦略の正体なのです。
DeNAのAI活用術:「守り」の生産性向上と「攻め」の事業創出
「AIにオールイン」と聞くと、何か派手な新規事業を想像しがちですが、DeNAの戦略はもっと現実的で、地に足がついています。
【守り】既存事業のコスト削減と生産性向上
岡村CEOは、「(全事業における)収益を上げる前提の中にAIが入っている」と強調しています。
これはどういうことか? 例えば、絶好調のゲーム事業。その開発プロセス、マーケティング、ユーザーサポートなど、あらゆる場面でAIを活用し、効率化を図っています。AI活用によるプロトタイプの作成や、検証の効率化により、事業スピード自体を加速させているのです。
つまり、AIは「新規事業」であると同時に、全事業の利益率を底上げするための「インフラ」として機能しているわけです。
- ゲーム開発:デバッグ(不具合探し)の自動化、キャラクターデザインの試作
- マーケティング:ユーザー動向のAI分析による、最適な広告配信
- カスタマーサポート:AIチャットボットによる一次対応
これらの地道な「守りのAI」活用が、社員のAIスキルを強化し、生産性を向上させ、結果としてコスト削減(=利益率の向上)に貢献しています。
【攻め】AIの事業化への挑戦と『Pococha』での活用
もちろん、「攻めのAI」も忘れていません。 ライブストリーミング事業の『Pococha(ポコチャ)』では、AIを活用した監視体制やユーザー体験の最適化がすでに行われています。
そして、前述の「20の新規AIサービス企画」です。 これらがすぐに『ポケポケ』のような巨大な収益源になるとは限りません。しかし、DeNAはそのうちのいくつかが「当たる」ことを信じて、投資を続けています。
AIの民主化—。全社員がAIを使いこなし、そこから新しいビジネスのアイデアが生まれる。DeNAが目指しているのは、そういう「AIネイティブ」な企業文化そのものなのかもしれません。
【経営企画・DX推進部必見】DeNAの決算から学ぶべき「AI投資」のリアル
さて、DeNAの決算をここまで見てきて、私たちは何を学ぶべきでしょうか。特に、日々AI活用やDX推進のプレッシャーと戦っている経営企画部やDX推進部の方々にとっては、他人事ではありません。
「AI事業が赤字」をどう捉えるか?未来への“必要な痛み”
まず、AI事業が12.91億円の赤字であるという事実。 これを「失敗」と切り捨てるのは簡単です。しかし、岡村CEOが言うように、これは「必要な投資」であり、「未来への痛み」です。
あなたの会社で、「AIで何かやれ」という指示が出たとき、その予算は「コスト」として扱われていませんか? それとも「未来への投資」として、短期的な赤字が許容されていますか?
DeNAは、AIを「すぐに成果が出るもの」ではなく、「投資が必要なもの」と明確に位置づけています。この経営判断こそが、AI戦略の第一歩です。
「ゲームが稼ぎ、AIに投資する」— 盤石なキャッシュフローの重要性
DeNAがなぜこれほど大胆にAIに投資できるのか。 答えは簡単です。『ポケポケ』を擁するゲーム事業が、年間数百億円の利益を生み出す「圧倒的なキャッシュエンジン」だからです。
もし、あなたの会社にDeNAのゲーム事業のような「稼ぎ頭」がなかったら…? AIに12億円の赤字を出す投資など、できるでしょうか。
ここから得られる教訓は、「攻めのAI投資」を行うためには、まず「守り(既存事業)のAI活用」を徹底し、既存事業の収益性を極限まで高める必要がある、ということです。AIでコスト削減を進め、そこで生み出した利益を、未来のAI事業に再投資する。このサイクルを確立することが不可欠です。
あなたの会社は大丈夫?「AIの民主化」とトップのコミットメント
DeNAの事例は、AI戦略の成否が「ツール」ではなく「人」と「覚悟」にかかっていることを示しています。
- トップの覚悟:岡村CEOの「AIにオールインする」「スピード感が違う」という言葉。経営トップがAIの重要性を理解し、全社に発信し続ける覚悟があるか。
- AIの民主化:一部の専門部署だけでなく、全社員がAIスキルを身につけ、日々の業務で活用する文化があるか。
DeNAは、この両輪を全力で回しています。 あなたの会社では、AIは「情シス部やDX推進部の仕事」になっていませんか? 経営トップは、「AIってよくわからないけど、よろしく」と丸投げしていませんか?
DeNAの決算は、「AI時代に企業が生き残るための条件」を、私たちに突きつけているのです。
まとめ:DeNAが見据える「AIの先」— 既存事業の成功を未来への推進力に
DeNAの2026年3月期 第2四半期決算は、私たちに「AI時代の企業戦略」のリアルな姿を見せてくれました。
『ポケポケ』という大ヒットゲームが現在の莫大な利益を生み出し、その利益を「AIにオールイン」という形で未来に全力で投資する。
「AI事業が赤字」という表面的な事実に惑わされてはいけません。 むしろ、あれだけのキャッシュエンジンを持ちながら、それに満足せず、次の時代(AI)に全社でオールインできる「危機感」と「スピード感」こそが、DeNAの最大の強みです。
この記事を読んでいる経営企画部、DX推進部、そしてすべてのビジネスパーソンの皆さんに問いかけます。
あなたの会社には、未来の危機に対応するための「ポケポケ」と「AIへの覚悟」がありますか?
DeNAの次の一手が、日本のAIビジネスの未来を占う試金石となるかもしれません。
